≪上級文法講座≫

このページでは読書会のテキストに見受られるような高度かつ洗練された文章を精確に理解することを目的に、文法書では言及されることの少ない上級の文法知識、またはそれを読解するための技術を扱っていく。

≪上級文法(1)≫

題材:Berlin, P7

, but if Plato’s main doctrines had not transcended their own time and place, they would scarcely have had expended on themor, indeed, deservedthe labours of gifted scholars and interpreters.

ポイント@ have O ppにおけるOの後置

ポイントA 等位接続詞orhad (x) expended or deserved (x)を結び、二つのVの共通の目的語にあたるのが、the labours以下.


【構文の生成過程】

共通構造は、基本的に省略によって生じる。仮に今回の英文を全く繰り返しを厭わずに書くならば:

they would scarcely have had the labours of gifted scholars and interpreters expended on them, or indeed, they would have scarcely deserved the labours of gifted scholars and interpreters.

のようになる。この場合、等位接続詞orは二つの文を結ぶ役割を果たすが、これら二つの文には大いに共通する要素がある。まず、they would have scarcely hadまでは全く同じで、the labours以下にも差がない。そこで前者をA、後者をBと置くこととする。さらに、二つの文で異なっている、have expended upon themをX、deservedをYと置くと、この二つの文はこう表すことができる:

(they would scarcely have) (had expended on them) (the labours…)

or

(they would scarcely have) (deserved)             (the labours…)


ここで、因数分解的発想によって、共通要素をくくりだせば、この文は

( or )

と節約的に表すことが可能である。これが本文の形である。

【練習問題】構造を解析し、和訳せよ。

On any other subject no one's opinions deserve the name of knowledge, except so far as he has either had forced upon him by others or gone through of himself the same mental process which would have been required of him in carrying on an active controversy with opponents.



                                                                        

APPENDIX:

上の英文では、have O p.pのOの後置が主要なポイントですが、同時にorが構成する『共通関係』が構文把握を難しくする一因ともなっています。ここでは、『共通関係』の概論を少し扱っておきたいと思います。「

共通関係(因数分解型ストラクチャー)考

英語の構造を精確に把握することにおいて、and, but, orなどの等位接続詞が織り成す共通関係の正しい理解は不可欠です。これは『精読講義』のほうでやまださんが指摘してくださった通りです。ここでは、共通関係について、その論理と原則、またそれが実際にとりうる様々な諸形態を吟味しながら、考察を深めていきたいと思います。

等位接続詞に関する最大のポイントは、その名のとおり文法的に等価なものを結ぶということです。例えば形容詞要素と形容詞要素、あるいは名詞要素と名詞要素というように、A and Bという形が生じた場合にはAとBがその文中で果たす文法的機能は同じもの(あるいは極めて類似したもの)である可能性が高いのです。これは一見すると自明の理を述べているようにも思われますが、このルールに対する理解が意外に徹底していないために生じるエラーというのは少なくありません。例えば、

However as social animals we certainly do have a rather more detailed interest in and appreciation of motives as cause.

Henry Plotkin: "Evolution in Mind"

(しかしながら、社会動物として我々は確実に、原因としての動機に実際より深い興味を抱いているし、また、それをより深く理解してもいる。)

という英文は、受験生や学生にとっては難しいものに移ります。しかし、この英文のhave以下の部分も、<interest in>(A) and <appreciation of>(B) motives as causeというように、『名詞+前置詞』という等価の構造が二つ結び付けられた形という点では、Every Tom, Jack, and Harryなどというような単純な名詞の並列とかわらぬルールが適用されているわけです。ではなぜ、基本的ルールの応用であるにもかかわらず、このような英文の構造が看破しにくくなるのでしょうか。これには省略の問題が大きく関わってくると思われます。

等位接続詞や共通関係の問題は本来省略の問題と切り離すことができないものです。というのも、当為接続詞というものは起源を辿れば、原則的に文と文と結びつけるものであって、ゆえに現代英語に見られるような『名詞and 名詞』の並列や『動詞and動詞』の並列といったものも、実は二つの文の結びつきから生じてきていると考えることができるからです。例えば、

Jack and Bill visited the place.

というような文も、

@Jack visited the place.
ABill visited the place.

という文がまずあって、その二つを等位接続詞で並列した結果、同語(visited the place)の反復を避けるために省略が起こった、と考えることができるからです。このように考えると、上のinterest in and appreciation ofの英文にしても、本来は、

@We do have a rather detailed more interest in motives as cause.
AWe do have a rather more detailed appreciation of motives as cause.

という二つの文が基底にあったことが考えられます。この二つの文における共通項はwe do have a rather more detailedとmotives as causeなので、この二つを括りだして異なる部分だけを等位接続詞で結ぶという構造をとることで、 上のような経済的な表現が生じたと考えられます。より記号的に言うなら、A]S+AYSという構造をA(]+Y)Sというものに置き換えたと言ってもいいでしょう。これが多田氏の著作などで共通関係が因数分解型ストレクチャーと言われる所以です。

この種の英文を看破するためには、格品詞の機能に対する習熟が不可欠です。例えば、(他動詞1 and 他動詞2)名詞という構造の場合、1と2の両方が目的語を要求するので、どちらも後ろの名詞につながっていくと考えられる力が必要なわけです。前置詞にしても、その機能は絶対に目的語をとるということですから、前置詞の直後に等位接続詞のandやbutなどがきていたら要注意で、後ろに目的語がないとおかしいと考える感性が必要です。以下の英文を見てみましょう。

If an arrangement is to claim the support of those living under it−if it is to claim legitimacy, in other words−then it must rely on or call into existence some form of reasonable integration of the elements of their naturally divided selves.

(ある政策がその下で生きる人たちの支持を当然のものとして要求しようとするなら−言い換えれば、正当性を主張しようとするなら−それは自然状態では分裂している個々人の諸要素を何らかの形で妥当に統合したものに依拠し、また、そういうものを生み出さなければならないのである。)

後半の部分で、rely on or call into existence some form of…というのがありますが、ここも、前置詞onの目的語はどこか、他動詞callの目的語はどこか、という意識を常に持っておくことが精確な構造把握の近道となります。

では次の英文はどうでしょうか。

If a machine can think for itself on some level, perhaps even learn from and improve upon its performance through experience, it can be a far more useful tool.

やや意地の悪い例と思われるかもしれないですが、ここでfromの後にandがきているのを見て、『あれだ!』と思い、<learn from>and<improve upon>という構造を想定してしまうと致命的です。意味から考えて、『経験を通してのそれの能力から学ぶ』というのは何が言いたいのかよくわかりません。ここは、<learn from> and <improve upon its performance through> experience 『経験から学び、そして、経験を通してその能力を向上させる』と考えるのが正しい解釈です。

さて、上で共通関係の構造が問題となりやすいのは、そこに伴われる省略構造(多くの場合日本語には見られないような)が原因であると述べました。しかし、例えば、interest in and appreciation ofなどのような例は文法のルールさえ気をつけて見ていれば、構造を取り違えるということが起こる可能性が低いのに対して、先ほどのlearn from and improve upon its performance throughのような例は、さらに意味を考えて論理的に可能性の高い選択肢を選ぶという過程が必要となってきます。これが共通関係の把握を一層困難なものにする要因だと思われます。さらに次のような英文に目を向けて見ましょう。

Second, the learning of language structure, that is, the grammar and syntax that characterize every language, occurs without the child, and subsequently when the child grows into an adult, without the adult having any idea at all what it is they have learned.

Henry Plotkin: "Evolution in Mind"

(第二に、言語構造の学習、すなわち、あらゆる言語を特徴付ける文法と統語構造の学習が起こっている間も、子どもは自分がいったい何を学んでいるのかについて少しもわかっていないし、また、後にその子どもが成長して大人になったとしても、やはり何を学んできたのかのついては全くわからないのである。)

この場合も、文法だけに注意して物理主義的に英文を追っていけば、without the childを『子どもなしに』と判断して無理なところはないと言えます。しかし、意味を少しでも考えるなら、without the childで一旦区切り、そこを『子どもがない状態で』と訳すことは絶対におかしいということに気付きます。結論としては、<without the child >and <without the adult>が核となる共通構造ですが、having any idea at all what it is they have learnedはthe childとthe adultの両方につながっていきます。ここは他にもthe child and the adult having any ideaが<意味上のS+動名詞>の構造になっていることにも注意が必要ですし、what it is (that) they have learnedの部分に見られる疑問詞の強調構文も熟知しておくべき頻出の構文ですが、これらはまた別のトピックで扱いたいと思います。



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